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初めて油絵具を手にし、ヨーロッパ絵画の一片に触れた気分になった頃、父が残り物の木でパレットを作ってくれた。
とても器用な人で、大抵の物は自分で作っていた。
子供だった私は、こっそり道具を ひっぱり出したあげく、鋸の目をつぶし、鑿の刃を欠いては、父を何度も慌てさせた。
絵画の歴史の中に画布(キャンパス)より以前に、板を使っていた時代がある。
その国、 土地で手に入る堅木を切ったり削ったりと、当時の画家達は描く以前に一仕事も二仕事もしていたのだろう。
現在とは道具も違い、何をするにも遥かに長い時間を費や したと思われる。
いつのまにか私もこの五百年も前に流行った技法に手を染めることに なってしまったが、
何かにつけTempoを上げようとする自分を戒める事が多い。
父の遺してくれた鋸は、ゆっくりと、しかし鋭い切れ味で、床に静かに木屑を落とす。
福岡 通男






